武蔵野東学園の教育方針

武蔵野東学園の教育方針

引用元:武蔵野東学園ホームページ
https://www.musashino-higashi.org/philosophy/inclusive.html

武蔵野東学園は、健常児と自閉症児が共に学ぶ「インクルーシブ教育」を先駆的に実践してきた教育機関です。1964年の幼稚園開園以来、すべての子どもが共に育ち、共に学ぶことを大切にしながら、「人間としての可能性を最大限に伸ばす」ことを目指しています。

その教育方針は、以下の「五本の柱」によって支えられています。


1. 生活療法 〜生活のリズムと基本的習慣の確立〜

生活療法では、子どもたちの心と身体のバランスを整えることから始めます。自閉症児にとって安定した生活のリズムと予測可能な環境は、安心と信頼を育む重要な要素です。

日課は常に同じ流れで行われ、朝の会からはじまり、運動、学習、遊び、食事、帰りの会と続きます。これにより「次に何をするか」が見通せるようになり、不安が減り、集中して行動できるようになります。

また、衣服の着脱、トイレの使い方、手洗い、あいさつなど、日常生活の基本的な行動を一つずつ丁寧に身につけていきます。こうした積み重ねは、「できた!」という達成感と自信につながり、その子の意欲を引き出す原動力となります。


2. 集団教育 〜模倣と共感を育む場〜

武蔵野東学園では、自閉症児も集団での教育を受けます。これは、一人ひとりの特性に応じた個別対応と同時に、「集団の中で育てる」ことを重視しているためです。

クラスでは、教師が子どもたち一人ひとりに働きかけながら、全体としての流れを作っていきます。ある子どもが教師の指示に従って行動した様子を、他の子どもが自然に模倣することで、「学びの連鎖」が生まれます。

この模倣や観察を通じて、子ども同士の間に少しずつ「他者への関心」や「共感」が芽生え、やがて自発的なやり取りや協力行動へとつながっていきます。集団の中でこそ育まれる社会性を、丁寧に育てていくのが武蔵野東学園の特徴です。


3. インクルーシブ教育 〜共に学び、共に育つ〜

健常児と自閉症児が同じ校舎で学び、行事や活動を共有するインクルーシブ教育は、武蔵野東学園の象徴ともいえる実践です。

たとえば、小学校では通常学級と自閉症児のクラスが同じ校舎内にあり、交流授業や合同イベントが日常的に行われます。中には、音楽や体育、図工などの授業を一緒に受けることもあります。

この環境の中で、健常児は「違い」を自然に受け入れ、自閉症児に対する思いやりやサポートの心を育てていきます。一方、自閉症児にとっても、健常児の姿から多くを学び、「一緒にやる喜び」を感じる機会が増えます。

インクルーシブ教育は、すべての子どもにとって豊かな学びの場であり、多様性を認め合う社会づくりの第一歩でもあります。


4. 社会自立に向けた教育 〜将来を見据えた支援〜

武蔵野東学園の教育は、学校生活にとどまらず、卒業後の「社会での自立」をしっかりと見据えています。特に中学部以降では、将来の進路や職業に向けた具体的な取り組みが行われています。

自閉症児には、個々の特性や得意・不得意を把握したうえで、身につけておくべき生活スキルや就労支援を行います。公共交通機関の利用練習や買い物学習など、実生活に即したトレーニングも含まれます。

一方で、健常児にも「自分の得意なことを見つけ、社会にどう貢献していくか」を考える機会が多く与えられます。このように、すべての子どもが「自立した市民」としての土台を築くことが、教育のゴールとされています。


5. 保護者と教師の連携 〜共に育て、共に悩むパートナー〜

武蔵野東学園では、「家庭との連携」を何よりも重視しています。子どもの育ちは、学校だけでは完結しません。家庭と学校が一体となって、子どもを支えていくことが不可欠です。

教師は日々の様子を細かく記録・観察し、定期的に保護者と面談を行います。そこでは、子どもの成長や課題についての情報を共有し、保護者の思いや悩みに寄り添いながら、共に考えていく姿勢が貫かれています。

また、保護者が参加できる学園行事や、勉強会・講演会などの機会も多く設けられています。家庭と学校が「同じ目線」で子どもを見守り、共に育てていく関係こそが、子どもにとって最も大きな支えとなるのです。


おわりに

武蔵野東学園の教育方針は、一人ひとりの違いを大切にしながら、すべての子どもが「自分らしく輝く未来」を描けるように支援することにあります。知的・発達的な困難を持つ子どもたちに対しても、希望と可能性に満ちた未来を信じ、共に歩む姿勢が、国内外から高く評価されている理由です。

子どもたちの「今」と「これから」の両方を見据えた教育。それが、武蔵野東学園の揺るぎない理念です。